ベームのThe Flute and Flute Playing

12:G管のアルトフルート
 

いよいよ最後の章です。
ここではベームが新たに開発したアルトフルート(ベームによる表記ではバスフルート)が紹介されています。
いわく、通常の足部管を延長しただけのフルートや昔のフルートダモーレでは低音に求められるより深くて力強い、そして堂々とした表現が満足のいくようには得られないし、逆に音が弱々しく音の組み合わせも難しいことからそれらの低音が実用的ではなかったということで「バセットホルンやコール・アングレに似た」全く新しい低音楽器を作る必要に迫られたとしています。 ベームはアルトフルートを晩年特に好んで吹いていたようで、その豊かな響きの抑揚が歌謡スタイルの曲に適していて、ソプラノ歌手の伴奏などにも向いていると言っています。


enokida:
アルトフルートに関しては本当にベームのオリジナルで、それ以前にあったいかなるフルートとも比較ができません。この飛躍が無ければその後のバスフルートやそれより下の低音楽器というものも有り得なかったわけですから、現在のフルートの世界の基礎となる部分は全てベームが一人で作り上げたもの、といっても大げさではないでしょう。

pankomedia:
アルトフルート以下の低音楽器はあまり作っているメーカーが無くて、不思議なことにフランスよりもイギリスやドイツのメーカーのほうが熱心であったようです。春の祭典やダフニスとクロエの初演の際にはベームかルーダルのアルトが使われていたのでしょうか。

enokida:
その辺の情報はあまり無いですね。いずれにせよフレンチスクールの中にアルトフルートの項は出てこないので、ベームの言っている歌唱スタイルの楽器としての普及はしていなかったようです。私もあまり吹きませんがルーダル・カルテを1本持っています。

pankomedia:
ルーダルは私も持っていましたが、ベームの435の図式から割り出したと思われる440のスケールを採用していて素晴らしいものでした。(以下、ベームによる435ピッチの数表)




enokida:
後期のルーダルではクーパーもアルトフルートを作っていたそうだけど、あまりアルトフルートのスケールの話は出てきませんね。

pankomedia
ベームの設計では管の内径が26mm、歌口が13mm x 11mmとなっています。これは今でもアルトフルートのデフォルトとなっていると思うのですが、楽器も作品もC管に比べればずっと数が少ないのであまり話題にはならないのかもしれません。

enokida:
フルートリサイタルと称して、綺麗なお姉さんがあの大きいのを持って出てきたらちょっと奇異な感じがするかも知れませんね。ソロ楽器としての使い道というのはもっと掘り下げるところがあるようには思いますが。

pankomedia:
メカもベームのものは左手用の延長メカが現在のものより歌口に近く、右手との左手の開きが大きくなっています。演奏する際にガバッと腕を広げるような格好になって、その姿があまりスタイリッシュではないということもあるでしょうか。トリルの表に出てくる左手のDトリルキーは現在では見られないようです。
(以下、ベームによるアルトフルートのオープンG#のメカニック図とトリルチャート)





enokida:
実はベームの作ったアルトフルートも昔に一度吹いたことがあって、木製の歌口がついていて大変豪快に鳴る楽器であったことだけは覚えています。とはいえ、私もアルトフルートに関してはあまり深く研究をしたことがないんですよ。なにしろオーケストラでも登場の機会が少ないし、たまにあっても私は高音を受け持つほうが多いですから。

pankomedia:
やはり、アルトフルートは通常のC管フルートとは別の楽器として考えるべきなのでしょうか。ベームも教会で歌手の伴奏を吹いたときに「ホルンと間違われた」といって喜んでいるくらいですから。

enokida
「ホルンではない、フルートだ。」といって怒っていればまた歴史は変わっていたかもしれませんがね。ともかく、アルトフルートは今でもアンサンブルの中で個性的な楽器として活躍しているわけですし、オーケストラ作品でも採用されている箇所ではその特色を生かすような使われ方がされています。それにフルーティストの仕事が増えるということ自体、素晴らしいことですよ。

pankomedia:
春の祭典とダフニスがあるというだけで、フルーティストだけではなくたくさんの人がその恩恵をこうむっていることになります。ベームの編曲したアルトフルートのレパートリーなども聴いてみたいですね。

enokida:
それはこれからの課題ということで。


- T・ベーム著"The flute and flute playing" 第一部「フルートについて」/ enokida氏との読み解き 終了 -

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